おもしろ化学史

おもしろ化学史 page 52/60

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見えなかった分子に「光」を与える緑色蛍光タンパク質を発見した下村脩動物の血管内を増殖し移動するガン細胞。あるいは、アルツハイマー病で壊れていく神経細胞や、インスリンを分泌する細胞が膵臓(すいぞう)で作ら....

見えなかった分子に「光」を与える緑色蛍光タンパク質を発見した下村脩動物の血管内を増殖し移動するガン細胞。あるいは、アルツハイマー病で壊れていく神経細胞や、インスリンを分泌する細胞が膵臓(すいぞう)で作られる様子など、細胞内で起こっていることをその目で確かめることは、科学者たちのひとつの夢でした。それを可能にしたのが、緑色蛍光タンパク質(GFP)と呼ばれるタンパク分子の発見です。この発見以前、細胞内での現象をリアルタイムで観察することは不可能に近いものでした。なぜなら、タンパク分子はわずか10ナノメートル(ナノは1/10億)と、電子顕微鏡でも見ることができないほど、非常に小さいものだからです。しかし特定したタンパク分子に蛍光タンパク質をつけることで、電球のように光り、タンパクの活動を追跡することが可能になったのです。そしてその発見の中心となったのが、米ウッズホール海洋生物学研究所・元上席研究員の下村脩でした。1928年、陸軍軍人の子として京都府に生まれた下村は、満州などを経て長崎県諫早市で終戦を迎えました。戦争のため、ろくな勉強もできないまま旧制長崎医科大学附属薬学専門部(現長崎大学薬学部)を卒業した彼は、企業への就職を志すも「会社員に不向き」との理由で挫折。母校の実験指導員から名古屋大学へ国内留学し、そこで有機化学の平田教授と出会いました。そして、教授から与えられたテーマが「ウミホタルのルシフェリンの精製と結晶化」でした。プリンストン大学が20年以上も前から研究していた極めて難しいこの課題を、1956年、27歳の下村が解決。それが評価され、1960年、プリンストン大学のフランク・ジョンソン教授緑色蛍光タンパク質の構造(結晶のリボン・ダイアグラム)に招かれたのです。渡米後、ジョンソン教授に師事した彼は、ウミホタルやオワンクラゲなど発光生物の発光メカニズムを研究し、次々と解明していきました。その中でも特筆すべき成果が、1962年、オワンクラゲからのイクオリンおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその後の研究です。生物発光とは化学反応の結果生まれるもの。例えばウミホタルが属するオステラコッド(貝虫亜綱の甲殻動物)では、化学物質ルシフェリンに、ルシフェラーゼという酵素の触媒作用によって酸素(O2)が加わり酸化型のルシフェリンと炭酸ガスと光が生成します。そこで下村と研究チームは、オワンクラゲがウミホタルと同じメカニズムで光るかを研究しました。そしてクラゲが発光する原因としてイクオリン(aequorin)という物質を特定し、それがCa 2+ (カルシウムイオン)のもとで、アポアクオリン(apoaquorin)とコレンテルアミド(coelenteramide)に分解され光と炭酸ガスを出すことを証明。さらに、緑色に発光するため同時に関わる別の分子として、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見しました。次いで1974年、イクオリンがカルシウムと結合することで青く光り、蛍光発光と呼ばれる過程を経て、GFPが緑に光って見えることを解明しました。この間、研究に使われたオワンクラゲは、85万匹にも上ったといいます。下村脩(長崎大学提供)これらの研究成果は、以後多くの科学者に応用され、医学と生物学に革命的な発展をもたらしました。その功績が認められ、2008年、下村脩は共同研究者2名とともにノーベル化学賞を受賞したのです。50