おもしろ化学史

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有機合成化学に革命をもたらす根岸英一鈴木章有機物を思い通りに組み合わせ、新しい価値をもった未知の物質を生みだす。それは、総ての有機化学者の永遠の夢です。そして、この「有機合成」という現代の錬金術は、次....

有機合成化学に革命をもたらす根岸英一鈴木章有機物を思い通りに組み合わせ、新しい価値をもった未知の物質を生みだす。それは、総ての有機化学者の永遠の夢です。そして、この「有機合成」という現代の錬金術は、次々と新たな化合物-例えば軽くて丈夫な宇宙船や飛行機のボディ、人々を病苦から救う医薬など-を生みだしてきました。では有機合成とは、どういう技術なのでしょうか。有機化合物の基本骨格は炭素。つまり、この炭素同士をつないで新たな骨格を作り、そこに酸素や窒素などを含む「官能基」(一定の性質を持ったいくつかの原子グループ)を整えれば、必要な分子が完成します。この2種類の有機物をつなぐ反応を「クロスカップリング」といいます。話としては実にシンプルなのですが、有機物中の炭素と炭素をつなげることは、実際には高温高圧など非常に厳しい条件や高度な技術を要し、かつ不必要な化合物や望まない副生物ができてしまうなど、多くの難点を抱えていました。この難題をクリアしたのが「根岸カップリング」と「鈴木カップリング」です。1935年、満州に生まれた根岸は、戦後神奈川県大和市に引き揚げ、1958年、東京大学工学部を卒業し帝人に入社ます。その後、ペンシルベニア大学に留学し理学博士を取得。パデュー大学の博士研究員を経てシラキュース大学准教授時代の1977年、根岸カップリングを発表します。それは、デラウェア大のリチャード・ヘック教授が確立した、酸化反応を促す新たな触媒として、発見されたばかりのパラジウムを使った手法を発展させたものでした。根岸はパラジウム触媒に加え有機亜鉛を使うことで、より効率的に狙った物質だけを根岸カップリングR1-ZnY + R2-X→R1-R2鈴木カップリングPd CatalystR1-B(OH)2+R2-X R1-R2Base根岸英一鈴木章合成することに成功。この手法は、適用範囲が広く複雑な添加物や加熱を必要としない画期的なものとして一躍注目を浴びることとなりました。次いで1979年、北海道大の鈴木章が根岸の理論をさらに展させた「鈴木カップリング」を発表したのです。鈴木は1930年、北海道の現・むかわ町に生まれました。早くに父を亡くし苦学しながら北海道大学大学院理学研究科を卒業。1963~65年、パデュー大学のハーバート・ブラウン教授のもとで有機ホウ素化合物の研究を行います。このときの経験を活かし発見したのが鈴木カップリングでした。その特長は、それまでの不安定で危険な有機金属化合物に替え、安定で取り扱いやすい有機ホウ素化合物を導入したことにあります。しかし安定でありすぎるため、反応を起こしにくいという点で、有機ホウ素化合物は使えない、というのが当時の常識でした。鈴木は、それまで使われることのなかった「塩基(アルカリ)」を反応系中に加えることで、スムーズにカップリング反応が起こることを発見したのです。この改良が、有機合成に革命的な進歩をもたらしました。安定していて結晶性の固体として長期間の保存が可能。過激な反応もなく、副生物も毒性のないホウ酸塩で水洗いだけで簡単に除去できるため、初心者でも簡単・安心して扱えます。根岸と鈴木、2人の発見したカップリングは以後、産業から医学の分野まで様々に活用され、その功績により2010年、ノーベル化学賞を授与されました。しかしながら、2人とも特許を取得していません。なぜなら、それが「人類のため」だと考えたからです。51